若杉ばあちゃんの食養

若杉ばあちゃんの食養は、マクロビオティックの創始者、桜沢如一氏の教えが根底にあります。
しかし、現在のマクロビオティックはすでに、桜沢氏の思いとかけ離れたものとなり、食養も病気治しと
思われていたり、美容・グルメと勘違いされていることがとても残念でなりません。

本来の食養は自然と生きる生活法であり、日本人が培ってきた伝統であり、生きる知恵なのです。


陰陽とは

陰陽というと陰は悪くて陽は良いものであるというように捉えている方が多いように思いますが、
それは間違いです。
絶対の陰もなければ絶対の陽もありません。
陰と陽は対立するものであると同時に相互補完しているものでもあります。

天に対して地があり、昼に対して夜があり、夏に対して冬があり、男に対して女があります。
呼吸は吸って吐くし、朝になれば起きて立ち動き回り、夜には横になって寝ますよね。
これ、みんな陰陽なんです。

食材でも、夏(陽)に出来る野菜や果物は体を冷やす陰性のものが多く、
冬(陰)に出来るのは体を温める陽性の根菜が多い。

さらには、一つの植物の中にも陰陽があるんです。
例えば大根は、地上にできて上に広がる葉(陰性)と、地中に向かってのびていく実の部分
(それも、細いしっぽに向かうほど陽性)がありますね。

人間の体だって、下半身は陽で上半身は陰、右は陽で左は陰、前(腹)の方は陰で後ろ(背)は陽と、
全てに陰陽があるんです。

陰陽を理解すれば「万物は陰陽から成る」の真実が分かるはずですし、中庸を保つ術が分かるようになります。

でも、これは頭で考えているだけではなかなか実感を持てないものですからね。
実践していけば感覚的に分かるようになりますので、卓上の知識で終わらせないで
暮らしの知恵に変えていって下さいね。


桜沢 如一氏(ジョージ・オーサワ)

陰陽は、中国の伏羲という人が「易学」として確立した教典に端を発してるんです。
3000年以上の長い歴史があるんですよ。
伏羲は、万物に共通の理があるはずだと考え、長い間観察を続けた結果、陰陽論にたどり着きました。

「易」というと占いを思い浮かべる方が多いと思いますが、本来の「易学」はこの宇宙に万遍なく
満ち満ちている力を解明するもので、現代の「当たるも八卦、当たらぬも八卦」なんていうような
いい加減なものではなかったんです。

陰陽師は宇宙の働きを理解していたから様々なことを読み取ることができ、
その予知能力で運勢を見ることができたんです。

そして、日本には昔から伝わる暮らしの知恵があり、その中でも食や医学に焦点を当てたものが貝原益軒の
「養生訓」や石塚左玄氏、安藤昌益氏の食養生で、桜沢如一氏は易学とそれら日本古来の教えを統合して
マクロビオティックを確立したのです。

桜沢氏は食養を教え広めながら海外にもわたり、彼が行くところではその効能を実感した多くの人たちが
マクロビオティックを実践するようになっていったのです。

残念なことに、現在、一般的に食養はただの食事法だと思われています。
でもそれは間違いで、食養は生き方そのものなんです。

陰陽の原理は自然界も人間社会も、森羅万象を成す原理ですから、それを理解すれば人は自らの運命を
創造する力さえ得ることができるのです。


「食」は人に良いもの

「食」という文字をよく見てみましょう。
「人」に「良い」って書い「食」なんです。
これは、若杉ばあちゃんの口癖で講演会でもいつも言っていることなんです。

ところが皆さんは今何を食べているかわかりますか?
水耕栽培で大地を知らずに育った野菜を「無菌で安全」とか、旬に関係なく温度調整されたハウスで育った
果物が「きれいで美味しそう」だとか言っていませんか?

自然界で育つものは、害虫や雑草の中で寒さや日照りや日照不足にさらされながらも
生き延びて実るから強いんです。
そういうものをいただいていれば、簡単にはウイルスだの菌だのを寄せ付けない強い体になるのです。
反対に無菌状態の温室なんかで育った野菜ばかり食べていれば、体もそうなるんですよ。
ひ弱で抵抗力がない、モヤシみたいにね。

おまけに早く収穫したいからといって、24時間照明をつけっぱなしで野菜を寝かせないような育て方も
増えています。
寝不足どころか、完全な睡眠障害の野菜を食べているから、人間も夜型になってバイオリズムが
狂ってしまうんです。

その体にさらに化学調味料だの人口甘味料だの添加物をワンサカ摂取していればどんなことになるか!
体が悲鳴を上げているわけですよ。

陰陽が難しくても、自然の摂理にかなっているかどうかなら分かりますよね。 
自然界に存在しないような環境からくるもの、自然界の条件から逸脱したものは
「本当にそれでいいの?」って疑うことからまず始めましょう。


米が日本人の心と体をつくる

日本は豊芦原(とよあしはら)の瑞穂(みずほ)の国。
穀物が実り、それで命を作る国なんです。
だから、昔から神棚には米と塩と水を毎日そなえるのです。
「口」の中に「米」を止めて「歯」、「口」で「米」を止めて「噛む」で、臼歯が20本。
米を噛むためにたくさんある訳です。

米は単に食料というだけではありませんよ。
米からできた血が体を造り、日本の精神を創り、大和魂を創るんです。
ただ栄養がある、なんて次元のものではありません。
神代から続いている命のルーツと言ってもいいくらいなんです。
八十八歳を「米寿」といいますね。
これは米を食べて長生きしてめでたいから祝うんです。
米から離れると「迷う」になっちゃますよね。  

米には「ヒコ」と「ヒメ」の神言葉が込められており、米の「コ」というのはデンプンの部分のことで
陽性の彦の男性を表し、「メ」は芽の部分を表して陰性の女性のことなんです。
一粒の種には陰陽二つの働きがあり、陽は大地に深く根をおろしていき、陰は上空に伸びて花や種を作るんです。ヒコとヒメの下の文字もコメを表していますよね。
全宇宙の氣が込められているから米なんです。

米には三体の神さんが宿ると言われており、食事の時に「いただきます(貴方の命を私の生命として
いただきます)」と言うのは感謝と祈りと悟りなんです。

ただし、米といっても白米ではだめですよ!
糠の部分に栄養が豊富にあるのだから、玄米や三分付き米をしっかり噛んで食べなきゃ意味がない。
さらには圧力鍋や炊飯器ではなく、土鍋で炊いてください。
土鍋で炊いたご飯は、赤外線効果でふっくらとして美味しいですし、土鍋で炊いた玄米や三分付き米から
造られる血液には、36.5度の恒常温を保っていて体を中庸に保ってくれます。

そして、作法の流派で有名な小笠原流では、健康の原理を「ご飯三口にお菜が一箸」と教えています。
くれぐれも、おかず喰いにならないよう気を付けましょう。


お塩のはなし

日本の唱歌に「我は海の子」という唄があるように、生命は海から発生してきたので、
海は「産み」の親なんです。
胎児は母体の羊水の中で、血潮の潮騒の拍動音を聞きながら育ち、赤ちゃんとして生まれてきます。

昔の人は血液のことを血潮とよび、血液や羊水も1%弱~9%の塩分をもっています。

古代人は海水を汲んで火で煮詰めて塩を作ることを発見し、たくさんの保存食を残しています。
塩は人類の大切な財産です。
生命のふるさとの海にあるのは単なる塩ではありません。

塩が悪いからと減塩すると胃腸の働きが弱まり、貧血になり、低血圧になり、脱力感が起こったり
元気がなくなったりします。

人間は直接塩を摂取するとそのニガリ成分で腎臓をいためるので、
大豆や植物に塩を抱かせて熟成させた味噌や醤油、漬物、金山寺、梅干し、ごま塩などで塩分をとって下さい。

味噌、醤油、梅干しなどは年月の経ったものほど塩害はありません。
むしろ、元気パワーの源となって活力が沸いてきますよ。


塩梅(あんばい)が大事

料理教室やレシピで、食材や調味料の目方や量をよく聞かれるんですが、普段私は量って料理をしません。
料理は、体調を考えて作るものなんですよ。
塩だって味噌だって、毎回同じ分量なんておかしいでしょう?

塩梅(あんばい)って言葉を知っていますか?
「塩」と「梅」で「塩梅」です。
伝統的な日本の調味料は、体が必要とするミネラル分を調整する大切なものなんです。
使う量はその日の体調によってちがって当たり前。
疲れている時など、体が塩分を欲していれば味付けが濃くなったりしますよね。
その時に美味しいと感じる味が「塩梅」。
それは一人ひとり違いますから自分で考えてちょうだいね。
頭は伊達についてはおりません。
考えるためにあるんですから。

料理は、本来、自分や家族の健康を維持し体調を管理するために作るものだったんです。
今の人たちは体が何を欲しているかなんて関係なく、口が欲しがるもの、
心が欲しがるものを食べているでしょう?
そんなことばかりしていると、健康維持なんてできませんよ。

塩や味噌などの調味料はとくに良いものを使ってくださいね。
アミノ酸なんて入ったものは本来の日本の調味料ではありません。
よく考えて選んでください。


野草の食べ方 ~灰汁抜き~

食養では野草を食べます。
若杉ばあちゃんのレシピ本にもたくさんの野草料理を紹介しており、魅力の詰まった食材ですが、
アクが強いものもあるのでしっかりと灰汁抜きする必要があります。
うまくアクを抜くと素材のうま味も増しますよ。

アクが強い野草は通常の塩ゆでをして冷水にさらしたあと、水7に対して醤油3の割合の割りした醤油に
15分~20分漬けます。
アク抜きが終わったらしっかりとしぼって、割した醤油は捨てること!
「もったいない」なんて言ってその醤油を使ったりしてはだめですよ!

醤油洗いした野草は和え物、ご飯やパスタの具、炒め物、味噌汁やすまし汁、お料理のトッピングなど、
相性を考えて色々楽しんでみてください。

ワラビやゼンマイのようにアクが強くて陰性のものは、特にしっかりと灰汁抜きしてください。
重曹やミョウバンなんかではアクは抜けませんので、クヌギの灰で丁寧に灰汁抜きをしてください。


醤油洗いをする野草:セリ、ワサビ、ヨメナ、ナズナ、オオバコ、ツユクサ、イノコズチ、
          アカザ、紅花ボロギクなど。


草は草かんむりに早いと書き、旬も早いから若葉の鮮度のよいものを早く食べるようにしてください。
草は、料理、お茶、浴剤、薬、枕、お手当て、活ける、飾る、紙、つつむ、糸、染料、織る、あむと語れば
種がつきません。

数年前、植生調査と生物調査に調査隊がばあちゃんの家に来て、結果130種類の植物と60種類の生き物が
発見されました!
おどろきと同時にとてもうれしかったです。

*野草には毒を持ったものや似たものもたくさんありますので、ご自身が自信をもって食べられると
 わかる野草を食べるようにしましょう。

 


大豆は陰性で身体を冷やす

マクロビやベジタリアンをされている方で、お肉の代わりとして大豆を取り入れる方は多いと思います。
豆腐や納豆・豆乳を使った料理も人気ですが、
大豆は極陰性で身体を冷やす性質があるから気を付けないといけません。

「豆腐は和食の代表」みたいなイメージが一般的ですが、昔はそんなに頻繁に食べるものではなかったんです。
お揚げさんなんかは晴れの日(記念日、祭日)の食べ物で、それこそ盆と正月くらいしか使わなかった。
今ではスーパーで溢れるほど売っていて、みんな年中食べているでしょう?
そういうことを知らないで、「豆腐は畑の肉で日本食だから」なんて思って
バンバン食べてるとどんどん冷え症になり、痔をつくり、腸や腰の調子も悪くなります。

大豆を煮るときは陽性な根菜と合わせてください。
昔の人は食べ合わせで陰陽のバランスを取っていたんです。
夏は冷奴でも薬味にネギやショウガをつけて醤油や塩気で食べる。
冬は土鍋で温めて湯豆腐にする。
食材1つとっても食べ方って大事なんです。

自然療法で子どもが熱を出したときに、額に豆腐を当てて熱をとったりするくらい豆腐は体を冷やすんですよ。
豆乳なんて生で飲んでいたら、クーラーで冷えた体がますます冷えますからね。
気を付けてください。